クリエイターズダイアリー みんなの時間の作り方 vol.2 佐野文彦さん(建築家/美術家)

「Google Calendarと併用し、日々のタスクを確認する」

D-BROSのクリエイターズダイアリーを実際に使っていただいてる方々に日々のスケジュール管理について伺うインタビュー第2弾。

第2回は、数寄屋大工の職人から建築家という異例の経歴をもち、文化庁の文化交流使として国内外でも活躍される建築家・美術家の佐野文彦さん。

建築のみならずアートやプロダクトなど多岐にわたるフィールドで表現する佐野さんが、日々どのように頭のスイッチを切り替え、プロジェクトを進行しているのかを聞いてみました。


 

きっかけは偶然入った家具店から

ーーどのような経緯で建築家になられたのでしょうか?

「僕はもともと数寄屋大工という、茶室や料亭等を作る大工だったんです。高校を卒業してから何をやって生きていこうかなと考えていたんです。好きで、一生続けていけるもの、それを考えたら物を作ったり絵をかいたりすることだった。でもアーティストって職業なの?どうやってなるの?って思って具体的には見えてなかったんです。その頃、毎日通る道にとても気になっている建物があり、ある日思い切って入ってみた。そしたら、そこはアンティークの北欧家具などを売る予約制のインテリアショップで、デンマーク現地やクリスティーズなどのオークションで買い付けた一流の家具やインテリアがごろごろしていた。凄い衝撃でした。僕は圧倒されて、接客してくださった方と話していたらアルバイトしませんかという話になり、そこで働くことになりました。

働き始めるとそこは、ジョン・レノン邸、ロックフェラー・ジュニア邸、松下幸之助邸などの住宅から俵屋や和久傳などの有名料亭旅館、伊勢神宮や大徳寺、裏千家などの茶室も手がける日本の最高峰の数寄屋の工務店でした。畳の部屋が減っていく中で、日本建築に合う家具とは何かを親方が考え選んだのが北欧家具だった。手がけた物件に合う家具を調達するために作られたお店だったんです」

 

 

ーー運命的な出会いですね。

「そうですね。働く内に徐々にデザインというものに惹かれていって、アルネヤコブセンと言う建築家の事を知って、建築家になりたいと思いました。ヤコブセンの事をプロダクトデザイナーだと思っている人も多いと思うんですが、彼はデンマークでは都市計画をも手掛ける建築家だった。彼がSASロイヤルホテルを手掛けた時にラウンジチェアからランプ、カトラリーなどテーブルウェア、灰皿から蛇口やドアハンドルまでデザインした。それを知った時、建築家になれば空間にあるものすべてを手掛ける事ができるかもしれない。そしてこの工務店で経験できることは大学に行くよりも特別なものになるのではないか。そう考えて、親方に弟子入りさせてほしいと相談して、住み込みの大工見習いとして働かせてもらうことになったんです。それから職人として修行し、さまざまな現場で経験を積ませてもらいました。

修行が明け、弟子から職人になるという時期を機に建築家になりたいと親方に相談して独立し、そこから初めて海外旅行に出て、2ヵ月間ヨーロッパの遺跡や建築などたくさんのものを見て回りました。その後、東京の設計事務所で二年ほど働いたのち、自分の事務所を立ち上げました」

ーー職人時代に学んだことが今のお仕事にも活かされていますか?

「そうですね。大工だとこの木材がどんな木なのか、どんな触り心地なのかとか、実際にカンナで削ったり、穴を掘ったりもするので、材料の性質がわかりやすいんです。あとは実際にどうやってものができていくのかも学びました。その後、設計事務所に入った時も、みんな図面上ではこんな風にしたいというのがあるんですが、この厚みで持つのかとか、実際のイメージができないことが結構あって。

大工だった頃、本当にこのままで建築家になれるのかとても不安だったんです。だって家は一人で建てるのではないし、ましてや設計したわけでもない。だから夜に若い職人たちに集まってもらって、友人の家のリノベーションを夜な夜なして、自分で設計して施工するっていう過程を経験してみてました。
それに寺社仏閣から現代建築、茶碗などの骨董や工芸、デザイン、現代美術など休日は一日中どこかで建築や展覧会を見に行ってたんです。

工務店では変わり者だと思われていたかもしれないですけど、それがあるから現代美術の話も骨董の話も建築の話もできて実際にハンドリングして作る事もできる。いろんなジャンルをクロスオーバーした仕事ができているのはその頃の知識や経験が大きいですね。

大工としての経験を生かし新旧様色々な技術や素材を使うこと。様々なジャンルの知識を経由させて文脈やコンセプトを作ってアウトプットする事。これが他の人にはない自分の強みかなと思います」

 

大切にしているのは伝統と現代の融合

ーー佐野さんの作品はからは日本の伝統をベースにしながらも、どこか洗練された現代的な新しさを感じますね。

「はい、それは常に意識しています。オーセンティックなものを、今だからできる形に変えていくとか、昔の形に戻すだけではない、新しい技術や素材との融合を目指しています。

仕事のひとつにリノベーションも多いのですが、その空間に馴染みながらも、ちょっと変化させてあるというのを意識しています。新しいものも古いものも混ざってる。その両方があることで、空間自体がわざとらしくなりすぎないバランスを考えたり、そのために現代の技術や素材、新しさという要素を足しながらデザインしています」

 

ーー海外での活動も日本の伝統や文化を大切にしながらも、その土地に馴染ませることを意識されているんですか?

「はい。2016年〜2017年にかけて、文化庁の文化交流使として約9か月ほど様々な国に行ったのですが、世界中のいろんな国で、現地の材料を使って現地の人々と、茶室を意識した現地スタイルの小屋を建てる。そうやってできた空間で、現地流の形でお茶会というか、おもてなしをやってもらう。そんなプロジェクトをやっていました」


ーー現地の方は茶室という文化は理解されてるんですか?

「いや、わからないですね。お茶の本質のひとつはおもてなしということで、彼らが考える現地流のおもてなしをしてくれればいいと考えました」

ーー面白いですね。

「ある国では豚を一頭丸焼きにしてくれたり(笑)」

ーー日本と現地の文化や価値観が融合するということなんですね。

「はい、そういうこともプロジェクトとしてやっていましたね。

 

 

クリエイターズダイアリーはタスク管理

ーークリエイターズダイアリーをお使いいただいてどれくらいですか?

「たぶん2012年くらいからなので、7年目でしょうか」

 

ーーちょうど事務所を設立された頃からでしょうか。

「そうですね。仕事が並行して色々出てきてからだと思います。設計事務所で働いていた頃も、いろんな手帳を使ったりしたんですけど、その時も日々タスクをどう管理するか考えてました」

ーータスク管理だけなら、アプリなんかも数多くありますよね。

「そうですね。アプリも使ったりしましたが、どうしても使い切れなくて。バーチカル*の手帳を探していて、たまたまこれを買って以来ずっと使っています」

ーーありがとうございます。今年の手帳もだいぶ使い込んでいただいてますね。

「はい、使いすぎてボロボロですけど(笑)」

ーー常時複数のプロジェクトを抱えながら、スケジュール管理はどのようにされているのでしょうか?

「全体のスケジュールはGoogle カレンダーで管理していますが、Google カレンダーだけだと自分がどこまでタスクを管理できているかわからなくなってしまうので、自分のやること、大事なもののチェックを手帳でしています」

 

 

タスクを書き出し、全体をイメージする

ーー全体スケジュールはGoogle Calendarで、クリエイターズダイアリーは自分のやることをチェックするタスク帳として使っていただいているということですが、実際にどんな風に使っているのでしょうか?

「下(ガンチャート*1)のところに自分で見出しを作って貼っていて、プロジェクト毎にやらなきゃいけないことを書くんです。書くことでなんとなく全体をイメージしています」

 *1 : プロジェクト管理や生産管理などで工程管理に用いられる表の一種。作業計画を視覚的に表現するために用いられる棒グラフのようなフォーマット

 

「大体ここ(下)に書くことは大まかなタスクですね。さらに、そのタスクのための資料づくりや電話など、To Doなんかも一緒に書き込んだりしています」

ーー結構細かく書かれるんですね。この斜線はチェックですか?

「はい。やったことはチェックをして、やれなかったことはもう1回隣に書いて、次の日のタスクにします」

ーーなるほど。タスク帳としての使い方はいいですね。この見出しのアイデアもすごく便利!

塩ビのシートを本体に貼り付け、付箋をガンチャートの見出しに。

 

「もう5年くらい前からやってますかね。列がどれだかわからなくなるじゃないですか。毎年張り替えて使ってます」

ーー付箋になっているので、入れ替えたりもできますね。

「終わったら剥がして、新しいものをつくって入れ替えて。挟むとしおりにもなるんです」

ーーそれはぜひ真似したいアイデアです!ひとつひとつのプロジェクト期間は結構長いんですか?

「そうですね、タスクが継続するプロジェクトで、3ヵ月越えるものはここに書き出して管理してますね」

ーー今までで1番長いプロジェクトはどれくらいですか?

「でも、そうでもないですよ、2年とか」

ーー2年!?それくらい長期になると、やはり細かくタスク管理をしていかないとゴールまで到達できないということなのでしょうか?

「いや2年あっても、さすがに2年先まで予定は組めないので、どっちかっていうと、来月の打ち合わせまでになにをやるかなど短期的なスケジュールを組んでます」

「結局最後にアイデアを形にするのは残りの一週間くらいなんです。全部長期で俯瞰してみるというよりは、そこまでに何を積んでいくか。何をどれくらいリサーチし、意識して探していくのかが重要になってきます。この日まではアイデア出しをして、他の(プロジェクトのもの)も一緒にみて、これはそろそろやらなきゃいけないぞ、というのが書いているうちに把握できてくるんです」

 

タテ軸(バーチカル*2)は日々のタスクの組み立てに

ーー上(タテ軸)はどうやって使ってますか?

「下(ヨコ軸)に書けない細かいことや、管理するほどでもない小さな案件は上に書いてます。あと、めちゃめちゃ詰まってくると、タスクごとにどれくらいの時間がかかるかなと書き出して計算してみることもあります。例えば、締め切りが決まっているのにやることがいっぱいあるという時。残された時間の中で収まるか収まらないか考えて、これは30分でやる、これは1時間でやる、2時間、2時間、、、、ってタスク毎にかかる時間を計算して、一日の中の時間を積んでいったりすることもあります」

*1 : 時間軸と呼ばれる、縦に時間ごとの目盛りが用意されたフォーマット

 

ーー赤と青はどう色分けしているんですか?

「赤はスケジュールで、青はやらなきゃいけないタスクですね」

ーータスクがわかりやすいですね。

「そうなんです。だから最近は、赤文字でのスケジュール管理にはあまりフォーカスしていません。スケジュール管理という意味ではGoogleカレンダーでスタッフと共有している方が忘れないし、スタッフがアップするものもあるので。手帳にはやらなきゃいけなかったはずだということをなんとなく見ながら書き出していくようにしています。あと最近よくやっているのは、さらに細かいTo DoをA4の紙にもう1回書き出すんです」

ーータスクの確認を徹底されているんですね。書くことでなんとなく不安も薄れたりしますよね。

「そうそう、やらなきゃいけなかったなと思って再認識できますね」


すべての時間が学びの時間

ーースケジュールの整理はいつやっていますか?

「1日の中でお風呂とか、どこかの時間をつくってやってます」

ーーお風呂ですか?!

「以前、ある企業の社長さんとなぜトライアスロンをやるのかというお話をしたことがあるんですが、自転車を漕いでるときは肉体的にはそう苦しくはないんだけど、それ以外なにもできない。つまり考えることはできるけど何にもできない状態、そうゆうタイミングに何か素晴らしいアイデアを思いつくことがあるという話をされていて、なるほどなぁと思ったんです。お風呂にはパソコンはもっていけないし、必然と何もできないので、お風呂の時間にスケジュール管理したり、文章考えたりだとか、明日何しようかというのを整理する時間にしています」

ーーそれは面白い習慣ですね。じゃあ毎日お風呂の時間はきちんと設けていらっしゃるんですね。

「基本的にはそうですね。毎日見直してます。その時間がまともにとれない時にスケジュール管理が甘くなっちゃうんでけど(笑)」

 

 

ーー最終的なアウトプットは1週間くらいとおっしゃっていましたが、アイデアを考える時間やリサーチ時間はどのくらい取られていますか?

「結構長いですね、それが一番メインです。どのへんまでアイデア出しか線で引っぱって書いてます」

ーー忙しい中でどうやってその時間を作っているんですか?

「そのための時間をどう作るかはあまり考えてなくて。というのも結局、いつも意識してるんです。

例えば、銀座に行って2時間あったら、ギャラリーとか4,5件見て回っちゃったり、仕事で美術館行っても、設営の合間に他の部屋でやっている展示を見に行ったりしているので」

ーー日々、学びと吸収の時間なんですね。

「そうですね。学びとアイデア出しもやりつつ、近くで見れそうなものは見に行く。
昔から思っていることは、これまで何億人という人々が二千年くらいかけて考えてきたことを知らないよりは知っていた方が絶対よいと思っていて、誰かの考えたものの上に乗っかって、更に自分たちがものを作った方が絶対面白いものができるので、出来るだけたくさんものを見ることは意識しています」

ーー自分の知識を広げていかないと、新しいアイデアはでてこないですよね。

「大切だと思いますね。極力いろんな事を経験していろんなものをみる、いろんなところにいく。だから出張大好きなんです」

 

Interview & Text :Eriko Fujitani

 

 

佐野文彦(さの・ふみひこ)プロフィール

1981年奈良県生まれ。京都、中村外二工務店にて数寄屋大工として弟子入り。年季明け後、設計事務所などを経て、2011年独立。現場を経験したことから得た、工法や素材、寸法感覚などを活かし、コンセプトから現代における日本の文化とは何かを掘り下げ作品を製作している。2016年には文化庁文化交流使として世界16か国を歴訪し各地でプロジェクトを敢行。地域の持つ文化の新しい価値を作ることを目指し、建築、インテリア、プロダクト、インスタレーションなど、国内外で領域横断的な活動を積極的に続けている。http://fumihikosano.jp